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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和38年(ラ)23号 決定

抗告人 外山忠男(仮名)

相手方  外山辰男(仮名) 外三名

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件記録によると昭和三八年九月五日原審判が抗告人に送達されていること、および原裁判所が、同年同月一四日、抗告人の、原審裁判官を宛名人とする、右審判には不服であるとして、その理由を記載した書信(したがつて印紙の貼用はない。)を受付け、次で同年同月二一日抗告人の、所定の印紙を貼用し、正規の様式を備えた抗告状と題する書面を受付けていることが認められる。右抗告状と題する書面によつて本件抗告がなされたものとするならば、本件抗告は家事審判法第一四条所定の二週間の抗告期間を徒過した不適法な抗告といわなければならず、却下を免れないわけである。しかし当裁判所は前記九月一四日受付の書信を以て、その形式にかかわらず実質上原裁判所に対し抗告の申立がなされたものと解し、さらに前記九月二一日受付の抗告状と題する書面に貼用されている印紙を以て、所定の印紙が追貼されたものと考える。すなわち当裁判所は本件抗告は抗告期間内になされた適法な抗告であると認めその当否につき判断する。

抗告人は原審判を取消し、さらに相当なる審判をなすことを求め、その理由として主張するところは、前記九月一四日受付書信によると、「相手方辰男は大学まででているが、その学費のため亡父の財産が相当費消されている。一方抗告人は家の犠牲となつて働いてきた。しかるに相手方辰男が残り少い遺産からさらに分割を受けようとするのは虫がよすぎる。大口市里字小尻○○○○番、宅地三三四坪六合(実面積六九二坪一合二勺)のうち二〇〇坪、および同市里字桶の口○○○番、田二畝七歩、同所○○○番、田四畝歩、同所○○○番、田一九歩をぜひ抗告人に配分して貰いたい。他の耕作地についても耕作権を認めて欲しい。」というにある。

よつて案ずるに、

(1)  抗告人は相手方辰男が被相続人外山良介より相当の学費を生前贈与として受けたと主張するが、本件記録中の昭和三六年一〇月一九日付中田岩雄の、同日付原田久男の各審問調書記載供述によるも右主張事実を認めるにたらず、昭和三五年九月八日付および昭和三六年八月二四日付抗告人の、各審問調書記載供述中、右主張にそう部分は、昭和三六年一一月二日付内田三郎の、昭和三五年四月二一日付相手方辰男の、各審問調書記載供述、および鹿児島県教育委員会教育長職務代行者吉留秀雄の認証ある相手方辰男の履歴書と対比して措信できず、他に右主張事実を認め得る証拠はない。よつて右主張は理由がない。

(2)  抗告人は大口市里字小尻○○○○番宅地三三四坪六合(実面積六九二坪一合二勺)のうち二〇〇坪、および同市里字桶の口○○○番、田二畝七歩、同所○○○番、田四畝歩、同所○○○番、田一九歩を抗告人に配分せよと主張するが、抗告人が原審判により配分を受けた土地、家屋だけでも遺産に対する抗告人の持分を超過しており、これ以上抗告人に右要求土地を配分し、相手方らに対する多額の金員償還債務を負担させることは、本件記録にあらわれた抗告人の経済力に照らし、適当でないと考える。よつて右主張も理由がない。

(3)  抗告人は相手方らに配分された耕作地について耕作権を認めよというが、そのようなことは遺産分割審判において法律上なし得るところではない。

(4)  仮に抗告人主張のように抗告人が家の犠牲となつて働いてきたとしても、このような事情を考慮してもなお原審判は違法とは認められない。

すなわち抗告人の主張はすべて理由がないというべきである。

而して本件記録を精査するも原審判には他に違法な点は認められない。(ただし原審判四枚目裏四行目に田一反一畝七歩とあるのは田一反一畝七歩、外畦畔二三歩の、六行目に田八畝七歩外畦畔五歩とあるのは田八畝九歩、外畦畔五歩の誤記と認める。)よつて本件抗告は理由がないから、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岩崎光次 裁判官 野田栄一 裁判官 宮瀬洋一)

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